「ぼくは勉強ができない」し、イケメンでもなければ、高校生でもない。物語の主人公ではなかった。

 自分がとんでもないバカだと痛感して、落ち込んでいる。

 かつての僕は小学生ながらも自分の意志でお受験戦争に身を投じて、志望校だった中高一貫校に合格した。その結果をもたらしたのは週に3度の塾通いと、日々の自主的な勉強だった。

 辛くなかった。毎日が楽しかった。塾のクラスメイトたちの中に遊びに出かけた友達はいなかったが、休憩時間に会話をするのが楽しみでしょうがなかった。

「ゴキブリヘアー(の先生)の機嫌が悪い」

「火星人(数学の先生の自称)がきもい」

「○○のアニメみた?(見てない)」

 そんな他愛もない会話で、ストレスは吹き飛んだ。

 

 だから、どこか心の片隅で、勉強に集中できる環境さえあればなんでもできる気がしていた。言いかえれば、条件付きの万能感だ。

 体調不良から内部進学を諦めて、私立中学校を退学したときもそうだ。「今は体調が悪くて勉強できないけど、❝頑張ることさえできれば❞残れたんだ」そう信じていた。

 

 あれは可能性が閉ざされていない思春期特有の自信だったのだろうか?

 

 昔のことになるけど、職業訓練を受けようとしたけど断念したことがあった。クローン病患者でなくても、過敏性腸症候群のかたならわかってもらえるかもしれない。とんでもないほど、お腹がボコボコいうのだ。

 手術で盲腸や回腸を切って短腸になり、消化不良から慢性的な下痢になってるせいだと思う。

 お腹がゴロゴロして辛いし、音も辛い。気を抜けば放屁や便失禁のおまけ付きだ(下痢気味なので、とっさのときに我慢できないため)。

 これじゃ閉鎖空間の中で集団で授業を受けるのは無理だ。

 そこで勉強は諦めて新聞配達のアルバイトを始めたのが、19歳か20歳のころだった。一週間の研修を終える頃には道を覚えてなんとかなりそうだったが、尻が裂けて下血が止まらなくなってしまった。これも諦めた。

 

 体調をコントロールするために様子見する日々が続いた。だけど、難しかった。下痢のせいで不定期で痔瘻が悪化する。患部が腫れて、膿が出てくる。粘着性があって、臭う。だから男なのに女性用ナプキンを常用している。

 椅子に座ることすらままならなくなって医者に見てもらうのだが、大抵は抗生物質が処方されれ終わり。2、3ヶ月後ぐらいに水ぶくれのように腫れ上がり、当直の先生しか居なければ麻酔なしで切開して排膿してもらう。痛い。

 来週の体調どころか、排泄の状態次第では明日の体調すら見通せない。頭を抱えるしかなかった。

 そこへ親父の借金だ。自宅は差し押さえられ、車も手放した。なにかを購入して、自宅で自主的に勉強する選択肢すらなくなってしまった。

 

  そんな日々をすごしていた僕だけど、幸運に恵まれてここ2週間ほどは「Progate」というオンライン学習サービスを利用して勉強している。しかも、有料コース。NHK学園とは違って、ノートパソコンを利用した本格仕様だ。HTML5CSSJavaScriptjQueryを中心に勉強している。

 だけど、自分でも戦慄するほど勉強が捗らない。

 自宅だからお腹がボコボコ鳴っても気にしない。トイレの回数を減らすために朝食を抜いて空腹になっても気にしなくていい。というか、トイレにいつだっていける。尻が痛い、下血だから、と椅子から立ち上がっても文句はいわれない。

 理想的な環境なのに……。

 

 そしてだんだんと気づいてきた。勉強が捗らないのは僕が無知なのではなく、ただのバカだからだということに。

 僕の父は学校も行かず畑仕事をしていた中卒だが、母は短大卒だ。父が学歴コンプレックスから人目もはばからず公務員や大卒を馬鹿にするたび、僕は無意識に母側に立ち父を見下していた。だから、きっとやればできる子なのだと思っていた。そしてそれはクローン病を患って勉強できる環境を失ったことから強く補強された。

 だけど、間違いだった。

 久々にお酒を飲んでる。チョーヤの梅酒だ。自分でもなにやってんだ、と呆れてる。だけど、こうやって言語化することによって心のもやもやが晴れるのを期待している。

 

 くろーんよ、今こそ向き合うのだ。うちに秘めし己の偏狭なプライドと、差別心に。時田秀美ではないし、時田秀美にバカにされた非モテガリ勉でもないのだ。