老いていく街で、取り残されていく精神病患者との付き合い方

 一年ちょっと前に、父の持ち家だった古家に引っ越した。実家のローンを完済したころ、銀行から新たな借入をせっつかれ、それを小耳に挟んだ不動産に煽てられて購入したものだ。   

 今の住居は高度経済成長期の頃に建てられた。バブル期よりも前だ。辺り一帯は似たような時代に建てられ、住民たちは高齢化している。孫は社会人になり、帰省することもない。道路で遊んでいる子供もいないし、近くの納屋では白骨化した遺体が発見された。*1そういう地域だ。

 当然、高齢者特有の問題もでてくる。路駐するのは介護サービスの車ばかりだったり、救急車がよく来たり。

 ちょっとおもしろかったのが、救急車よりもパトカーが多いことだ。

 母が井戸端会議に参加したところ、いろいろと事情を教えてくれた。

 曰く「被害妄想を患っている老婆がいて、隣人が電気を盗んでいる」と通報するという。

 慣れた警官ならいつものことって感じでサイレンを鳴らさずに来てくれるが、新人だと真に受けてサイレンを鳴らしてやってくるという。そして野次馬がたかり、警官は任意の家宅捜索をはじめ、真の被害者である隣人は慣れた手付きで招き入れるのだ。

 一連のイベントは、ここ最近に限って言えば季節イベントとなりつつある。今は一つの病院に3ヶ月しか入院できないから、

「そろそろあのひと帰ってくるね。」

「そのまま施設に入れられるんじゃないかなぁ?」

 そんな会話が続いている。老婆はまだ帰ってきていない。

 

 そんな状況で、だ。連日パトカーがやってくることが続いた。

「あのひと帰ってきたの?」 

「だれが通報したの?」

 濡れ衣だった。

 どうやら新しく引っ越してきた住人が、自分で通報したという。

 あんまりこんなこと書きたくないが、色々と思うところがあったので、詳細を書いてみる。

 その一家は全員精神病を患っているのだ。

 シングルマザーで、娘息子が1人づつの三人ぐらし。旦那さんとは離婚したという。

 住民たちの間で

「引っ越してきた人は何人か知ってる?」

「さぁ、女性しかみてない」

「男の人みたよ」

「じゃ、旦那?」

「歳は離れて見えたけど」

「前の人みたいに、連れ込んでいたの?」(以前は水商売の女性が住んでいて、子沢山なのに育児放棄地味だったから、よく話題にのぼったらしい)

 食い違う証言は、新しい住人が病気で自宅に引きこもり、顔を合わせる機会がなかったことから生まれたものだった。

 ここ最近は母と娘の間で口論が絶えず、ヒートアップしてドアや襖が蹴破られては、それ回収しに業者が来ていた。

 

 母の旧友に、住職*2の家に嫁いだ女性がいる。海外で就職して、いずれはグリーンカードを取得するつもりだったが、親の願いで帰国してお見合いした。生まれた息子が発達障害*3で、その分野の知見が日本には不足していることから自主的に勉強を始め、今ではその分野の准教授だ。

 幼少期の頃は僕の家庭にもお金があったから、いっしょによくひらパーに行ったし、プールの施設ができてからは、泳ぎにもいった。だから障害者といっしょにいればどうなるのか察しがつくし、周囲の眼差しに心を痛めたことは多い。

 そういう経験があるから、僕はそういう眼差しを向ける側には居たくないんだけど、今回のケースは戸惑ってしまう。

 

 僕の今までの人生では、障害者の傍らには必ず健常者がいた。

 よく遊びに行った山奥の娯楽施設では、聴覚障害者団体のツアーと鉢合わせすることが多かったけど、彼らと施設側の橋渡しをしていたのは、幼稚園よくて小学生ぐらいの耳が聞こえる孫たちだった。

 先程書いた発達障害の子には母親が付き添っていたし、中学校では別室登校可能な支援室があって、そこには相談役として視覚障害者の教師が常駐していた。単位制の高校(クローン病だと発覚して退学)に通ってたときは自閉症の子がいたけど、課外学習のときはマンツーマンで教師が連れ添っていたし、学校に知的障害者が作ったパンを売りに来ていた業者は、お会計の担当が健常者だった。

 以前暮らしていた街では、ギャンブル依存症で躁病も患っている女性がいたけど、既婚者で子供もおり、同居していた。女性が暴れたり、家を閉め出されて警察に通報されたときは、事情を聞くために家族に声をかければよかった。

 だからこそ、今回の場合はどうしたものかと思う。

 ろくに顔をあわせていないし、会話もしていないがご近所さんには変わりない。彼らが孤立しているなら、誰かが手を差し伸べるべきだと思うし、喧嘩しているなら仲裁してやれよ、とも思う。だけど、声をかけるべき、親睦を深めるべき相手がわからない。

 

 なかには無視しとけっていう人もいるだろう。だけど僕はひきこもっているのだ。幸いリモートワークの仕事が見つかり、今はプログラミングの勉強をしているんだけど、だからこそ一日中身近な存在で有り続けている。

 何もしていないのに罪悪感を感じ始めていて、そろそろ辛い。

*1:しかも、身元がよくわからん。辺り一帯の地主が先代だったころ、上京して暮らし始めた人らしい。地主の死後は家賃を振り込む銀行口座もわからなくなり、遺族からもなにも言われなかったから暮らし続けていた。身寄りもなく、7、80にもなるお爺ちゃんが、防寒断熱どころか、クーラーまでない納屋で暮らしていたとは、信じられない話だ。なんか、まよねーず先生の漫画であったよね、こんな話。

*2:お菓子を貰いすぎて糖尿病になった人

*3:昔は軽度だったけど、今は重度らしい